焼肉「山力」で仕事仲間と再会。待ち合わせとなっているJR木曽川駅に向かう車の中で、何を質問しようかと思考を巡らします。車の運転手は妻。いつもならお酒を控えるのですが、今回ばかりは誘惑に勝つことができない自分がいました。私にとって、人生を左右する時間になることを予想していたからです。
駅改札前で相手が来るのを待ちます。しばらくすると、改札の向こう側から手を振る男性が目に入ります。屈託のない笑顔で「お疲れ様です!」と、声を掛けてくれます。私も「お久しぶりです!」と張りのある声で返します。駅階段を下りて目的地に向かって歩き出すと、わずかにあった緊張も自然とほぐれ始めます。
前回は約束をしていながら「山力」が休みだったため、再会を果たすことができませんでした。今回はそのリベンジ、私の方から誘ったのがきっかけです。事前予約に加えて、開店時間に合わせて来店するという念の入れようです。お店のドアを開けると、入ってすぐ右側のテーブルが二人の到着を待ちわびるかのよう。
悠々と着席した後は、「まずは生でいきましょうか」と意気投合。ビールで乾杯、「カキーン!」ジョッキを併せる心地いい音が鳴り響きます。すぐに口元へジョッキを持っていき、数秒間はビールを流し込む無言状態。私は思わず「ぷはー、最高!」と、相手よりも先に声を漏らします。
「焼きニンニク、お願いします」と相手が注文します。何度も来店していますが、メニュー表にあったことすら知りませんでした。こんな発見も、一緒に来たことのない相手だからこそ。翌日の匂いを気にして、いつもならあり得ないことです。後で知ったのですが、どうやらニンニクが大好物のようです。
私は開口一番、「どうして、今の会社を選んだのですか?」と一番気になっていたことを聞きます。話の口火としては相応しくない質問かもしれません。もう少し場が馴染んでから、するべき話なのかなと。ですが、自身の将来がかかっているのだと思うと、躊躇する理由はどこにもありませんでした。
「土台がしっかりしているんですよ、だから安心して仕事ができる」と誠実に答えてくれました。私の目を真っすぐ見ながら話す姿勢は、決して上辺だけの欺こうともしていない気持ちが伝わってきます。目の奥から温かく優しさに満ちたものを、探し出すことができたのです。
終始自然体で話をすることができた私は、迷いを払拭することで前進することができました。明言はしなかったのですが、心の中で「よし、これにしよう」と決意。慎重にも慎重を重ねて歩く性格なので、この段階になるまでが一苦労です。「もっと気楽にやったらいいのに」と、自分自身を窘めることすらあります。
店を後にして、待ち合わせをした駅へと歩き始めます。改札前に到着すると、「じゃ、河村さん、頑張って」と声を掛けてもらいながら、最後は固い握手をしてお別れです。何度も振り返りながら、私に向かって手を振る姿を見届けます。相手の背中が見えなくなると、再び我に返る自分に気が付きます。
帰りは自宅まで歩くことに。酒に酔った体を、ほどよい温度の夜風が吹き抜けます。少々千鳥足だったのかもしれません。でも、「さあ、これからだ」と一歩一歩を踏みしめながら歩く感覚があります。新しい挑戦はもうすぐそこ。「頑張れ!直紀!」と鼓舞しながら、夜空を見上げるのでした。











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